【歴史教科書記述の比較資料】(ダイジェスト版)
(近代) 作成:子どもと教科書大阪ネット21事務局
育鵬社の記述 |
その問題点 |
他社の記述 |
51 明治初期の外交と国境の画定 p.172〜173 【北方の国境と守り】【清と沖縄】 【歴史ビュー】わが国固有の領土である国境の島々 …ロシアに不法占拠…。…韓国によって不法占拠…。中国や台湾当局が近年になって領有を主張…。 |
・蝦夷地から北海道への改称については触れていない。 ・「琉球処分」が武力を背景に行われたことの記述はない。 ・領土問題の対立を煽る記述。 |
日文「軍隊を派遣して廃藩置県を行い、沖縄県を設置しました。」 「先住民族のアイヌの人々は、仕事や土地を失ったり、移住を強制されたりして、生活に困るようになりました。」 教出は特設ページでアイヌの文化を記述している。 |
53 大日本帝国憲法の制定と帝国議会 p.184〜185 【大日本帝国憲法の発布】 …議会の力を、より強めたものでした。国民は法律の範囲内で、言論や集会、信仰などさまざまな自由が保障されるとともに、納税、徴兵などの義務を負いました。…この憲法は、アジアで初めての本格的な近代憲法として内外ともに高く評価されました。 【側注】A 天皇は、実際には政治的権限を行使することはなく、国家統治の精神的よりどころだった。 【帝国議会の開設】 教育勅語は、親への孝行や友人どうしの信義、法を重んじることの大切さなどを説きました。また、国民の務めとして、それぞれの立場で国や社会のためにつくすべきことなどを示し、その後の国民道徳の基盤となりました。 【教育勅語】(側注) もし、国や社会に危急のことがおきたならば、正義と勇気をもって公のために、働き、永久に続く祖国を助けなさい」(一部要約) |
・自由が「制限された」というより「保障された」かのような印象を与える。国民が天皇の「臣民」だったことの説明はない。 ・「アジアで初めての本格的な近代憲法」と手放しで賛美している。 ・天皇に主権があり、統帥権、勅令制定権、宣戦・講和の権限など絶対的な権限があったことの説明はない。「政治的権限を行使することなく」、「精神的よりどころ」ということで「象徴天皇」であるかのような記述である ・中江兆民が批判的であったことや、国民が内容を知らずにお祭り騒ぎを演じていたことについての「ベルツの日記」などについては触れていない。 ・天皇への「忠」を意図的に隠している。「国民道徳の基盤」として美化している。 ・「天壌無窮の皇運を扶翼すべし」の意味を、「天地極まりのない皇室の運命を助けなさい」から「永久に続く祖国を助けなさい」と言い換えている。教育勅語が天皇制を支えていたという本質をかくしている。 |
東書「主権は天皇にあり、天皇は政治責任を問われない存在で、国家の統治権を一手ににぎる国家元首であると規定されました。陸海軍の最高指揮権(統帥権)や、議会の召集・解散、条約の締結、開戦や講和についても天皇の権限とされ、強大な権力が天皇に認められました。」 学び舎「こっけいなことに、だれも憲法の内容をご存じないのだ」とベルツの言葉を紹介し、大日本帝国の内容を国民のほとんどが知らなかったと記述。 日文「天皇に対して忠義をつくし、国を愛する忠君愛国や、父母への孝行などを国民道徳の基本にすえ、教育のよりどころとするという政府の方針が示されました。」 学び舎は、教育勅語の儀式で深くお辞儀をしなかった内村鑑三が教師を辞めさせられた事例やご真影を守るために命をかけた教師の実例を示している。 |
59 国際的地位の向上と韓国併合 p.192〜193 【韓国併合】 …日本は、その武力を背景に、韓国と日韓議定書を結びました。これは韓国の領土を他国(ロシア)から守るため、日本軍が韓国内に展開することを認めるという内容のものでした。また、日露戦争中には、アメリカのフィリピン領有と、日本の韓国保護国化をたがいに支持する内容の合意が日米間で行われました。さらに、更新された日英同盟や、ポーツマス条約でも、韓国に対する日本の保護権が認められました。…欧米列強にも、朝鮮半島の問題で日本に干渉する意図はありませんでした。わが国の朝鮮統治では、併合の一環として近代化が進められましたが、… |
・韓国支配を、ロシアから守るためと正当化している。 ・日本の韓国支配を欧米列強が認めていたものだとして韓国併合を正当化している。 ・韓国併合で近代化が進んだと、植民地支配を美化している。 ・石川啄木の歌「朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつつ秋風を聴く」は載せられていない。 ・人口・戸数・耕地面積・米生産量・麦生産量・造林植樹数・普通学校数・普通学校生徒数が、増加している表を載せ、韓国併合が韓国を発展させたと美化している。 ・住民の抵抗を武力で抑えたことを記述していない。「開発を進めた」と美化している。 |
東書「日本は列強としての国際的な地位を固めました。国民の中には、列強の一員になったという意識がうまれ、アジアの諸国に対する優越感が強まってきました。一方、欧米列強の圧迫に苦しんでいたインドなどアジアの諸国では日本にならった近代化や民族独立の動きが高まり、中国では革命運動が急速に活発化しました。」 日文「日本に同化させる政策を進めました。また総督府が実施した土地調査事業で…所有権が明確でないとして土地を失う農民も現れました。」…日本や満州へ移住せざるを得なくなる人々の背景を記述。 学び舎「土地を買い占める東洋拓殖会社」として、朝鮮の農民の抵抗を抑え込み、土地を取り上げていった様子を詳述。 |
(二つの大戦)
【アジアの民族運動】 …(三・一独立運動)。朝鮮総督府は、軍隊を出動させて鎮圧しましたが、以後、武力中心の統治から、よりおだやかな統治へと変わっていきました。 |
・三・一の後、「おだやかな統治」に変わったかのように記述し植民地支配の本質をかくす。 |
日文「この運動で政策転換をせまられた日本は、言論や集会の自由を限られた範囲で認めるなど、統治のしかたを一部改めました。」(脚注) 学び舎 柳寛順を取り上げ、3.1独立運動を詳述。民族自決を求める国々の動きを取り上げ、帝国主義に抵抗する人びとを紹介。 |
66 ワシントン会議と日米関係 p.218〜219 【関東大震災】 …交通や通信がとだえた混乱の中で、朝鮮人や社会主義者が、住民たちのつくる自警団などに殺害されるという事件もおきました。 |
・軍隊・警察に殺害された甘粕事件・亀戸事件も自警団のせいにされてしまう記述である。 |
関東大震災の記述が全体的に弱まっている。 東書「流言が広がり」…デマを流した主語がない。 日文「デマが住民や警察によって」 学び舎「流言が広められ、軍隊・警察や、住民がつくった自警団によっておびただしい数の朝鮮人が虐殺された。」 |
70 中国の排日運動と満州事変 p.226〜227 【満州事変のおこり】 …排日運動の激化に対し、日本国内では日本軍による満州権益確保への期待が高まりました。 【建国1周年の満州国】(写真) 建国に際しては、「五族協和」などの理想がかかげられた。 |
・中国の排日運動が満州事変を引き起こしたかのような記述である。 ・「五族協和」を理想として肯定的に記述している。 ・軍部の当時の主張と同じ。 |
日文「国民政府は、日本が満州にもつ利権は、不当に期限がひきのばされたものだと批判しました。これに対し、日本の軍部や勢力拡大をめざす人などのなかには、満州を中国から切りはなして領有しようとする者が現れました。」 教出「「満州は日本の生命線である」として、武力を用いてでも日本の益権を守り、さらにそれを広げようとする主張が高まりました。」 |
71 日中戦争(支那事変) p.228〜229 【側注】B 日本政府はこの戦争を「支那事変」とよんだ。 【側注】C このとき、日本軍によって、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)。この事件の犠牲者数などの実態については、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている。 |
・南京大虐殺の実態は不明で「論争が続いている」として、南京事件そのものを曖昧なものにしている。本文に記述なし。 |
南京事件に関する記述が薄まっているが、他社は本文で取り上げている。 日文「12月に占領した首都南京では、捕虜のほか、女性や子供を含む多数の住民を殺害しました(南京事件)。…日本軍は、・・・重慶に爆撃を加え…」 東書「女性や子どもなど一般の人々や捕虜をふくむ多数の中国人を殺害しました(南京事件)。」 |
【大東亜会議の開催】 …1943(昭和8)年11月、東京で大東亜会議を開きました。会議には中国(南京政府)、タイ、満州国、フィリピン、ビルマ、インドの代表者が集まり、これらの地域を米英の支配から解放することなどをうたった大東亜共同宣言が採択されました。わが国の南方進出は石油資源の獲得をおもな目的としていましたが、この会議以降、欧米による植民地支配からアジアを解放し、大東亜共栄圏を建設することが、戦争の名目として、より明確に掲げられるようになりました。 |
・日本軍を「アジア解放」の軍隊として描いている。 ・アジア・太平洋戦争が、植民地解放戦争であるかのように思わせる記述である。 |
日文「日本は、東南アジアの人々に、欧米の支配を脱し、日本の指導下で栄えようとする「大東亜共栄圏」をつくろうと宣伝しました。しかし日本軍は、きびしい命令を下して資源や食糧を取り立て、住民を戦争に協力させました。このため、住民の日本への期待はしだいに失われ、武力による抗日運動も行われるようになりました。」 |
76 戦時下のくらし p.238〜239 【国家総動員体制】 …国民の多くはひたすら日本の勝利を願い、励まし合って苦しい生活に耐え続けました。…日本の鉱山などに徴用され、きびしい労働を強いられる朝鮮人や中国人もいました。 【空襲の被害と沖縄戦】 爆撃は軍の施設や軍需工場だけでなく、国際法で禁じられている商業地、住宅地にも無差別に行われるようになり、民間人にもおびただしい被害をもたらしました。 沖縄 …戦闘が激しくなる中で逃げ場を失い、集団自決に追い込まれた人もいました。 |
・当時のきびしい検閲や、言論・思想の取り締まり、「非国民」への迫害などが見えてこない。 ・現行の「連れてこられ」が「徴用され」に書き換えられた。 ・「強制連行」を連想させる言葉を変えたのか。 ・米軍の空襲については無差別性を問題にするが、日本軍の行った重慶爆撃や南京事件などは問題にしない。 ・集団自決をもたらした原因が日本軍の命令によるものだということを書いていない。 |
東書「植民地と占領地」という節を設け、詳述。 学び舎 朝鮮・台湾の人々についての徴用、連合軍の捕虜の強制労働にも言及。 東書 集団自決で日本軍の関与削除。 日文「日本軍によって「集団自決」に追い込まれたり、スパイと疑われて殺害された人もありました。」 学び舎「日本軍は、最後には玉砕を決意して、住民にも手榴弾を配りました。」他にもスパイ視虐殺やガマ追い出しなどの例をあげ、沖縄戦を詳述。 |
【日本の敗戦】 満州・北朝鮮にいた約200万の人々は、ソ連軍の攻撃や略奪にあい、多くの犠牲者を生みました。…第二次世界大戦全体の世界中の戦死者は2200万人、負傷者は3400万人とも推定されています。 【御前会議での昭和天皇の発言】 私はどうなろうとも国民の命を助けたい。 |
・日本軍が民間人を見捨てたこと、そのために中国残留日本人孤児が生まれたことなどは記述しない。アジアの戦死者数などは 記述しない。 ・731部隊の生体実験や三光作戦なども記述しない。 ・1945年2月、昭和天皇が近衛文麿の上奏を取り上げなかったことには触れず、天皇を美化する記述になっている。 |
学び舎「問い直される戦後」で、中国残留孤児や日本軍「慰安婦」をはじめとする戦争被害者の補償の問題を取り上げ、河野談話を記述している。日本軍「慰安婦」を記述しているのは学び舎だけ。 日文「日本政府は、最後まで降伏後の天皇制の存続の確認に勤めていましたが…」。国体護持にこだわったことを書いているのは、日文、学び舎、帝国だけ。 |
(現代)
78 占領下の日本と日本国憲法 p.254〜255 【戦後の民主化】 GHQは、日本が再び連合国の脅威とならないよう、国のあり方を変えようとしました。過去の日本の歴史教育や政策は誤っていたという宣伝を日本側に行わせ、占領政策や連合国を批判する批判を禁じました。 【日本国憲法の制定】 GHQは日本側の改正案を拒否し、自ら全面的な改正案を作成すると、これを受け入れるよう日本側に強くせまりました。… 議会審議では、細かな点までGHQとの協議が必要であり、議員はGHQの意向に反対の声をあげることができず、ほとんど無修正のまま採択されました。日本国憲法の最大の特色は、交戦権の否認、戦力の不保持などを定めた、他国に例を見ない徹底した戦争放棄(平和主義)の考えでした。しかし、占領が終わり、わが国が独立国家として国際社会に責任ある立場に立つようになると、憲法改正や再軍備を主張する声があがりました。この問題については、現在もなお多くの議論が行われています。 |
・日本政府は民主化に取り組んだが、占領軍は弾圧したという描き方である。 ・「過去の日本の歴史教育や政策」は誤っていなかったという認識による記述である。 ・日本国憲法は、GHQによって押しつけられたものだとして描いている。 ・「大日本帝国憲法の部分的な修正で十分」という立場からの記述である。 ・GHQの原案に日本人の学者たちの作成した憲法案が反映していること、国会審議を通じて「国民主権」を明記したこと、生存権を追加したことなどには触れない。 ・戦後改革を軽視。 ・民法改正の内容については、全く記述されていない。 |
東書 戦後の民主化と日本国憲法の制定で、3ページ 日文 国民生活を重視し、特設含めて7ページ。 日文「総司令部による改革とともに、民主化をめざす国民の運動がすすめられました。日本共産党が再建され、日本社会党や日本自由党なども結成されました。労働者は、生産の再開や賃金の引き上げを求めて、労働組合をつくり、農村では、米の強制的な供出に反対するなど、農民運動が盛んになりました。」 他社は大日本帝国憲法と日本国憲法の比較表掲載。 日文、帝国、東書、教出、学び舎は「あたらしい憲法のはなし」を紹介。 |
82 冷戦と昭和時代の終わり p.264〜265 【アジア諸国との関係】 わが国は1965(昭和40)年、韓国と日韓基本条約を結び、韓国政府を朝鮮半島にあるただ一つの合法的な政府として認めました。 … 戦後、沖縄はアメリカが施政権をもっていましたが、本土復帰をめざす沖縄の人々の長年の願いが実を結び、1972(昭和47)年5月、佐藤内閣によって沖縄本土復帰が実現しました。 【昭和天皇の崩御】(写真) |
・北朝鮮はその後、国連に加盟しているということを踏まえず、敵視を煽る記述になっている。沖縄県民の祖国復帰運動や米軍基地問題には触れず、政府によって祖国復帰が実現したという記述になっている。 ・あえて、昭和天皇の弔問に集まる人々の写真を入れる必然性はないはず。 |
日文「ベトナム戦争の基地としての役割を果たしていた沖縄も、沖縄の人々の祖国復帰へのねばり強い運動と、本土での返還運動の高まりのなかで、1972年にようやく復帰を実現しました。…沖縄には広大なアメリカ軍の基地が残されたうえ、自衛隊も配備されることになって、住民の不安や不満は残されました。」 学び舎「基地の中の沖縄」で返還に関する密約を紹介し、「日米安全保障条約によって、沖縄の米軍基地はそのまま残され、新たに自衛隊が配備されました。…沖縄の基地はむしろ強化されていきました。」 |
84 地域紛争とグローバル化 p.270〜271 【地域紛争】 …1991年に湾岸戦争がおこりました。…アメリカなどの多国籍軍が編成され、イラク軍を敗退させました。このとき、わが国は巨額の戦争費用を負担しましたが、憲法の規定を理由に人員を派遣しなかったため国際社会の評価は低く、国際貢献の在り方があらためて問われる結果となりました。このため、わが国は1992年以降、内戦が続くカンボジアに平和維持活動(PKO)として自衛隊を派遣するなど、自衛隊の海外派遣を行うようになりましたが、武力の行使は認められていません。 |
・日本の戦争参加を誘導する記述になっている。 |
日文「1992年初めて国連平和維持活動(PKO)に自衛隊員が参加しました。その後も、賛否両論のなかで自衛隊は、テロ対策としてインド洋に、人道復興支援対策としてイラクにも派遣され、紛争における人道貢献に応じるようになりました。」 学び舎 イラク戦争での自衛隊の活動で「武装したアメリカ兵の輸送など、武力行使と一体となる活動は、憲法に違反すると、自衛隊派遣の差し止めと損害賠償を求める裁判が行われました。…」 |
85 日本の現状とこれから p.272〜273 【世界のための日本の役割】 外交には、…わが国の立場や国益を守ろうとする姿勢が必要です。わが国固有の領土である北方領土(北海道)と竹島(島根県)は、それぞれロシアと韓国に不法占拠されたままです。わが国統治している尖閣諸島(沖縄県)の周辺海域には中国の監視船が侵入するなど、領土が脅かされています。中国をめぐっては軍事力の増強がアジア諸国の脅威となっています。北朝鮮の工作員に多くの日本人が拉致された事件(拉致事件)も解決されていません。…わが国は、過去の歴史を通じて、国民が一体感をもち続け、勤勉で礼節を大事にしてきたため、さまざまな困難を克服し、世界でもめずらしい安全で豊かな国になりました。… |
・憲法・防衛・教育などの「仕組みの見直し」を肯定的に記述している。 ・領土問題、軍事力増強など、軍事的緊張を煽っている。 ・自国を「世界の中の大国」と記述するなど「八紘一宇」の精神に通じるものがある。 ・憲法にもとづき、といった内容が全くない。 |
教出「日本は、第二次世界大戦を最後に、これまでどの国とも、直接には戦争をすることなく歩んできました。戦争被爆国としての経験や、非核三原則をふまえ、世界の核廃絶にむけて、リーダーシップを発揮していくことが期待されています。戦争の放棄を宣言した日本国憲法の精神にのっとり、世界の平和と、あらゆる国や地域の人びととの平等なつながりを求めて、いかに行動するかが問われています。」 |
【公民教科書記述の比較資料】(ダイジェスト版)
(憲法) 作成:子どもと教科書大阪ネット21事務局
育鵬社の記述 |
その問題点 |
他社の記述 |
大日本帝国憲法と日本国憲法 p.48〜49 【大日本帝国憲法の制定】 …政府は、伊藤博文らを中心に欧米の憲法を調査研究するとともに、日本の歴史や伝統、国柄の研究を行い、約8年間の歳月をかけて、1889(明治22)年、大日本帝国憲法として公布しました。 この憲法では…日本は万世一系の天皇が統治する立憲君主制であることを明らかにしました。天皇は国の元首であり、国の統治権を総攬する(すべてをまとめてもつ)ものであるが、憲法の規定に従って統治権を行使するものと定められました。…また、国民には法律の範囲内で
権利と自由が保障されました。この憲法は、アジアで初めての本格的な近代憲法として内外ともに高く評価されました。 【日本国憲法の制定】 …連合国軍最高司令官マッカーサーは、日本の憲法の改正を政府に求め、政府は大日本帝国憲法をもとに改正案を作成しました。しかし、GHQはこれを拒否し、自ら1週間で憲法草案を作成したのち、日本政府にきびしく迫りました。 【英文で書かれた日本国憲法の憲法草案】(写真) 【検閲を受けた出版物】(写真)検閲の実態や、GHQが日本国憲法の起草において果たした役割への言及も禁止しました。 … |
・天皇主権、天皇の絶対的権限、国民が「臣民」とされたという記述はない。 ・権利と自由が法律できびしく「制限」されたことの記述もない。 ・大日本帝国憲法の理想は正しく、国際情勢と軍部、憲法の不備が、理想をそこなったと記述。 ・GHQが政府の改正案を拒否した理由が書かれていない。 ・英文憲法草案やGHQの検閲の写真と合わせて、日本国憲法はGHQによって押しつけられたものとして記述。 ・日本の民間の憲法案も参考にしたこと、国会審議で国民主権を明記したことや、生存権を追加したことなどの記述はない。 ・改憲へ誘導する記述である。 |
他社のほとんどが大日本帝国憲法と日本国憲法の比較表を掲載。 日文「憲法が定める権利は、天皇があたえる「臣民の権利」であり、法律の範囲内で保障されるにとどまりました。また、議会や内閣の役割も限定されていたため、やがて軍部の暴走をおさえきれなくなり、日本は第二次世界大戦への道をあゆむことになりました。」 「ポツダム宣言には、軍国主義を取り除くこと、民主主義を強化すること、基本的人権を尊重することなど、日本がとるべき政治の方針が示されていました。そのため、大日本帝国憲法を根本的に改めることが求められていました。…戦後初めて行われた男女普通選挙ののち、議会で審議され、一部修正のうえ可決されました。…三つの基本原則は人類にとって普遍的なものであり、これらの理想を実現することが、国際社会において日本が果たすべき責務であることを、日本国憲法は示しています。」 脚注で「改正する案は民間団体や政党などから出され、そのなかには国民主権や平和主義を明記する案もありました。いっぽう、初めに政府が作成した案は、大日本帝国憲法の一部を改正するだけのものでした。そこで、連合国軍総司令部は全面改正を求めて、政府に改正草案を提示したのです。」 教出「ポツダム宣言には、基本的人権を尊重すること、民主政治を強化すること、軍国主義を取り除くことなど、これからの日本がとるべき政治の方針が示されていました。」ベアテ・シロタ・ゴードンを紹介。 憲法の成立の記述は日文と教出が詳しい。 |
国民主権と天皇 p.50〜51 【国民主権】 主権とはその国のあり方を最終的に決定する力や権限のことであり、その中には憲法を制定したり、改正するなどの大きな権限も含まれています。 【側注】@この場合の国民とは、私たち一人ひとりのことではなく、国民全体をさすものとされています。 【象徴としての天皇】 天皇は直接政治にかかわらず、…古くから続く日本の伝統を体現したり、国民の統合を強めたりする存在となっており、現代の立憲君主制のモデル…。 【日本の歴史・文化と天皇】(トピック) 天皇は、国の繁栄や国民の幸福を祈る民族の祭り主として、古くから国民の敬愛を集めてきました。また、精神的・宗教的な権威によって自らは権力をふるわないものの、そのときどきに権力をにぎる幕府などに権限を与える立場にありました。… 大日本帝国憲法では、天皇は元首であり統治権の総攬者でしたが、例外的に実権を行使した以外は直接政治を行ったわけではありません。…天皇を精神的な中心として国民が一致団結して、国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました。明治維新や、第二次世界大戦で焦土と化した状態からの復興は、その代表例です。 |
・国民主権よりも天皇の役割を強調する記述が多い。写真4枚中3枚が天皇。 ・「私たち一人ひとり」でなく、「国民全体」とは何を指すのか。国民主権の国民を一人一人の国民ではないとする説明は間違い。 ・天皇を「古くから」「国民」を統合する存在として描く。日本は「立憲君主制」ではない。 ・明治維新や戦後の復興は、「天皇を精神的な中心として国民が一致団結」した結果ではない。 |
日文「天皇は、国政に関する権能をもたないと定められています。天皇は、憲法に定められた国事行為のみを、内閣の助言と承認により行います。」 帝国「日本国憲法で国民主権が定められたことにより、大日本帝国憲法において主権者であった天皇の地位は大きく変わりました。」 東書「天皇は、国事行為以外にも、国際親善のための外国訪問や、式典への参加、被災地訪問など、法的、政治的な権限の行使に当たらない範囲で、公的な活動を行っています。」 |
5 基本的人権の尊重 p.54〜55 【権利と権利の対立と合意】(コラム) 社会全体の秩序や利益を侵す場合には、個人の権利や自由の行使が制限され ることもあります 【側注】A … 多くの国の憲法では国防の義務を課しています。 【国民の義務】 … この三つの義務に加え、すべての国民が憲法を尊重し、等しく憲法に保障された権利と自由を享受できるように心がけなければなりません。 |
・基本的人権の尊重より人権の制限・国民の義務の記述の割合が大きい。 ・公共の福祉とは「ある人の人権と他の人の人権とが衝突したときに調整する原理」という本来の説明がない。 ・公共の福祉の名の下に、人権が容易に制限できるかのように説明。 ・日本国憲法の「憲法尊重擁護義務」は国家権力に課せられたものである。 |
人権のページ…日文26ページ、教出24ページ、帝国16ページ、東書24ページ。 日文「たいせつな人権が「公共の福祉」の名をかりて、簡単に制限されないように注意する必要があります。どのような人権が、何のために、どの程度制限されるか、それぞれの場合によって検討することがたいせつです。」 帝国「憲法も、国民の自由や権利は「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と定めています。しかし「公共」とは、社会の一員である私たちが共同でつくりあげていくものです。公共の福祉の名の下にむやみに人権が制限されてはなりません。」 東書「何が公共の福祉に当たるのかを国が一方的に判断して、人々の人権を不当に制限することがあってはなりません。人権を制限しようとする場合は、それが具体的にどのような公共の利益のためであるのか、慎重に判断する必要があります。」 教出「人権の制限がどこまで許されるのかという問題は、必要な範囲で最小限に行われるかどうかで判断されなければなりません。」 |
6 平和主義 p.56〜57 …国民に国防の義務がない徹底した平和主義は世界的に異例ですが、戦後日本が第二次界大戦によるはかりしれない被害から出発したこともあり、この平和主義は国民にむかえいれられた。 た。【第9条と自衛隊】 …政府は、ここでいう戦争とは「他国に侵攻する攻撃」をさすのであり、「自国を守る最低限度の戦闘」までも禁じているものではなく、自衛のための必要最小限度の防衛力をもつことは憲法上許されると解釈し、自衛隊を憲法第9条に違反しないものと考えています。憲法の規定と自衛隊の実態との整合性については、今なお議論が続いています。 【集団的自衛権】(側注)国際連合憲章第51条において保障されている権利です。個々の国が自分の国を守る権利を自衛権といいます。そして同盟関係にある国の自衛を支援し、おたがいに防衛で協力しようとする権利を集団的自衛権といいます。 【各国の憲法に記載された平和主義条項と国防の義務】 (資料) |
・戦争の反省に触れないまま、GHQから平和主義が押し付けられたと記述。→改憲へ誘導 ・憲法9条の平和主義の精神、その果たした役割に関しては無視している。 ・「国防の義務」がないことが「世界的に異例」だと強調。 ・現行の「国内では、憲法は自衛隊の場合も含め、いっさいの武力・武器の使用を禁じているのであり、自衛隊は憲法に違反するという意見も長く唱えられてきました。」という記述は削除され、政府側の主張のみを記述。 ・各国の憲法の「国防(兵役)の義務」を列挙することで、日本国憲法はおかしいと印象づける。 ・今回の改訂では、「コスタリカ共和国憲法」を掲げることで、批判の緩和を試みている。 |
平和主義に関するページ…日文4ページ、教出6ページ、帝国2ページ、東書2ページ。 日文「このような悲惨(※第二次世界大戦における被害と加害の歴史)な経験を反省し、日本国憲法は、戦争を放棄して、世界の平和のために貢献するという平和主義を基礎としました。…日本国憲法は、戦力の不保持などを宣言することで、平和主義を徹底しました。このような憲法の下で、日本は、60年以上にわたり、戦争を起すことなく、平和を守っています。」 「第9条は武力によらない自衛権だけを認めているとか、自衛隊の装備は自衛のための最小限の実力をこえているなどの理由から、自衛隊は憲法に違反しているのではないかという指摘があります。政府は、主権国家には自らを守る自衛権があり、自衛のための必要最小限の実力は禁じていないから、自衛隊は、憲法の禁止する「戦力」にあたらないとしています。」 帝国「戦争は最大の人権侵害の場ともいわれていますが、世界各地で第二次世界大戦後も戦争が続いています。核兵器のように人類を滅亡させる可能性のある兵器も存在しており、軍備の縮小を進めて世界平和を追求する方法として、平和主義は現実的な選択になっています。」 東書「核兵器の廃絶と軍縮による世界平和を推進することが、国際社会において日本の果たすべき役割なのです。」 教出「日本国憲法は徹底した平和主義の考えかたをもつ憲法です。」 |
7 平和主義と防衛 p.58〜59 【日米安全保障条約】 戦後の日本の平和は、自衛隊の存在とともにアメリカ軍の抑止力(攻撃を思いとどまらせる力)に負うところも大きいといえます。また、この条約は、日本だけでなく東アジア地域の平和と安全の維持にも、大きな役割を果たしています。 【有事への備え】 有事への対応を想定した法律(有事法制)の整備が進められ、2003年に武力 攻撃自体対処法など有事関連算法が成立しました。 【沖縄と基地】(トピック) 日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制は日本の防衛の柱であり、アジ ア太平洋地域の平和と安定に不可欠です。一方で、地域住民の生活環境への 影響を考え、日本政府は沖縄をはじめとする各地域の負担軽減を行っていま す。沖縄では、基地の整理・縮小や住宅密集地区にある普天間飛行場の辺野 古への移設などを進めています。 |
・「平和主義」のあとに「平和主義と防衛」を設けている。 ・安保条約の一方的な肯定に導く記述である。北朝鮮や中国との緊張関係を煽る内容となっている。 ・日米安保条約を絶対視し、安保のためには基地などによる犠牲もやむなしとする。 ・沖縄の基地ができた経過、基地被害の実態、沖縄県民の声などを無視。 ・辺野古新基地建設を強行する政府の一方的宣伝 となっている。 |
教出「自国の領土をしっかりと守りながら、世界の平和の構築や国際貢献をさらに進めていくためには、今後の日本の平和主義や自衛隊のあり方を、どのように考えて言ったらよいのでしょうか。」コラムとして、集団的自衛権や沖縄の基地問題などを2ページにわたって取り上げる。 日文「近年、アメリカとの防衛協力が強化されてきています。2014年に、政府はこれまで許されないとしてきた集団的自衛権の行使を限定的に認める憲法解釈の方針を示した閣議決定を行いました。…このような自衛隊の海外派遣については、自衛の目的をこえるもので、外国軍隊の武力衝突に巻きこまれることをあやぶむ意見もあります。」コラムとして、【沖縄と基地問題】で、辺野古移転への住民の反対記述。【日本の平和主義】で、平和首長会議での広島市長や長崎市長による核廃絶の呼びかけ紹介。 帝国「近年では、日本に対して、資金だけでなく人的な行動をともなう国際協力を求める声もあり、平和主義や自衛隊のあり方が議論されています。」 東書「自衛隊は近年、日本の防衛だけでなく、国際貢献としてさまざまな活動を行っています。たとえば、…カンボジア、東ティモール、イラク復興支援、ソマリア…このような自衛隊の海外派遣については慎重な意見もあります。」 |
憲法改正のしくみ p.60〜61 【現実の政治と憲法のあり方】…自衛隊がPKOなど他国軍と共同で活動しているときに、万が一、他国軍が攻撃された場合でも、日本の自衛隊は相手に反撃することができないとの指摘があります。 【憲法改正の手続き】…今後は、各院に設置された憲法審査会で、国会に提出された憲法改正原案の審査が行われ、国会の議決を経た上で、国民投票による改正の是非が諮られることになります。 |
・自衛隊の武力行使容認へと誘導している。 ・各国の改正のしくみが違うので、改正の回数を論じることには意味がない。これも改正への誘導。 ・憲法改正が、既定の流れであるかのような記述。 |
日文「憲法改正の手続きは、法律の改正よりも厳格に定められています。基本的人権など、民主政治においてたいせつにすべき原則にかかわる国の最高法規の改正には、慎重な判断が必要だからです。」 帝国「日本国憲法の「改正」とは、一部の改正を予定しており、三大原則のような憲法の根本を大きく変える改正は、第96条によってもできないといわれています。」 教出 憲法改正については図説による解説のみ。 |
(基本的人権)
1 自由権 p.62〜63 【自由を求める願い】…今日でも、一部の支配者による専制政治が続く全体社会では、人々の自由が抑圧されています。日本国憲法は以下のように自由権を手厚く保障しています。 |
・日本における国家の自由権侵害の歴史に触れていない。自由権が国家からの自由であるという視点がない。 ・ことさらに中国を取り上げている。 |
4社ともに「国家から不当な干渉」は許されないと記述。 帝国 平等権から記述。 |
2 平等権 p.64〜65 【法の下の平等】 また行き過ぎた平等意識はかえって社会を混乱させ、個性をうばってしまう結果になることもあります。例えば、人は大人と子ども、親と子、先生と生徒、職場の上司と部下のように、年齢や立場のちがいなどに基づいて人間関係を築いています。 |
・平等権を限定的にとらえさせる恐れがある。 ・人間関係の例は上下関係のものばかりである。 ・子どもの権利条約成立以前の考えかたをそのまま記述。 |
日文「人はだれでも個人として尊重され、平等なあつかいを受ける権利(平等権)があります。…人の生まれや、人が生まれつきもっている性別や肌の色、身体の障がいなどの理由で差別を受け、不利益をこうむることは、個人の尊重の考えかたから許されないことです。」 |
国際社会における人権 p.78〜79 【国際的な人権尊重の広がり】…もともと発展途上国の子どもたちを劣悪な生活環境から救い出すことを目的にしていた条約です。 【人権をめぐる国際的な問題】…世界には独裁政治を行ったり、全体主義の体制の下に、国民の人権を侵害したり抑圧したりしている国家も見られます。 |
・子どもの権利条約は、開発途上国向けに制定されたものではない。 ・北朝鮮・中国への批判に誘導している。 |
日文【子どもの権利条約】 「日本やそのほかの先進国でも、虐待やいじめの問題があります。」 東書 マララさん。アイヌ民族。 教出 アムネスティインターナショナルの活動を紹介。 帝国 国際的な人権問題はとりあげていない。 |
(経済)
社会保障のしくみ p.162〜163 【脚注@】生活保護は、資産、能力などあらゆるものを活用し、民法上の扶養義務者からの援助も頼み、年金など他の制度でもらえる給付があればそれを受取り、それでもどうしても最低限度の生活ができない場合に初めて給付が行われます。 |
・権利としての社会保障の視点がない。 ・あくまでも自助努力を求めている。 |
帝国と育鵬社の生活保護記述は突出して自助努力を強調。 |
(国際社会)
国家とは何か p.176〜177 【日本の主権範囲】(地図) 〇 領土を取り戻す、守るということ p.178〜179 今回の新設ページ |
・北方領土・竹島・尖閣諸島いずれの記述も外務省のウェブサイトの引用。 ・「不法占拠」という表現は、韓国への敵愾心や排外主義を煽るものとなっている。 |
東書 特設ページで【日本の領土をめぐる問題の現状】として竹島、北方領土、尖閣諸島を詳述し、特設ページを使って領土問題を書いている。 帝国 領土記述は必要以上に多い。 教出 「不法に占拠」という用語が最も少ない。 |
世界平和の実現にむけて p.186〜187 * …日本は…世界平和の実現に向けての大きな役割を担うことが、内外から期待されています。…湾岸戦争をきっかけに、海上自衛隊の掃海部隊がペルシャ湾に派遣され、危険な機雷の除去作業を行いました。これは、自衛隊が初めて海外に出て行った、国連の平和維持活動となりました。…近年では、多国籍軍の後方支援や復興しそのために自衛隊が派遣されています。自衛隊の活動については、国際平和や協力活動のために積極的に海外で活動できるよう法律を整備することが議論されています。 |
・地域紛争などの原因は書かずに軍事的緊張による危機感を煽る記述が多い。 ・世界の人々が核兵器の廃絶や軍縮に取り組むことへの言及がない。 ・反核運動、非核自治体・非核地帯条約、対人地雷全面禁止条約やクライスター爆弾禁止条約も取り上げず。 ・アフガンやイラク戦争も記述なし。 ・「自衛隊の国際貢献」のみ強調。 |
日文「平和主義を掲げた日本は、経済活動によって発展途上国の発展・安定と世界平和を支えつつ、PKOに参画するなど、国際社会のしくみのなかで、世界の安全保障への責任を担っています。」 帝国【日本の外交の原則】として「世界各国との合意を大切にする多国間協力と、国連による決定を重視する国連重視、武力にたよらない貢献を目指す非軍事協力…」 東書「日本は人間の安全保障を外交方針の一つにしています。」 教出「戦争によって、日本がアジアにもたらした被害について、日本は深く反省し、条約を結んで対応してきましたが、今後も引き続き、近隣諸国との良好な関係を深めていく必要があります。」として、村山談話を紹介。 |